人は間違いから真実を知る

「俺、すーちゃんの事が好きみたい」

カイくんは23歳。2つ年下。
職場の友達の地元の友達で半年位前からたまに皆で集まっては一緒に遊ぶ仲。
3ヶ月位前にカラオケに行った時酔いすぎて気付いたらトイレの個室に2人でいた。
何を言っても言い訳にしかならないけど、自分でもビックリする位記憶が飛んでる。
でも、それからずっとカイくんが気になって仕方がない。

問題はそこじゃなくて、私が今婚約中って所にある。

j.j
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これは浮気になるのかな。

婚約者は、私より五歳年上。同じビルの別の会社で働いている笹木伸一さん。
付き合いはじめて一年半経った四ヶ月前にプロポーズされた。とても真面目でマメな人。私が仕事で嫌なことがあった日は、何をするわけでもなく私の部屋に来てくれる。声の調子で察してくれる、私には勿体無いくらいの人。

カイくんは悪くいえば自己チューだ。
わざと仕事帰りの私を待ち伏せするような。

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「カイくん…」
「すーちゃん!」
私を見つけたカイくんは主人を待ってた犬みたいに目を輝かせた。
心なしか大きく振られる尻尾が見えるような…。

「カイくん、こういうこと、されても困る。私前も言ったよね?婚約してるって」
「うん、聞いた」
「だったら…」
「でも俺、やっぱりすーちゃんのこと好きなんだよ」

困る。
そんな顔されても、私は結婚するんだよ。
カイくんの気持ちには応えられないんだよ。

toi
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「そんなことよりすーちゃん。おなかすいたでしょ? この間素敵なお店見つけて、すーちゃんと一緒に行きたいって思ってたんだよね」
そうやって話している間にも私の手を引いてどんどん歩いていってしまう。
「ねえ、カイくん! ちょっと待ってよ!」
いっつもそうだ。カイくんが私の手を掴んで話してくれたことなんて一度もない。
──それをわかっているから、振りほどくことを諦めてしまっている。

うみの みおり
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カイくんは、いつも私の少し前を歩いて、何かあるたびに手を引いてワンワン話しかけてくる。
伸一さんは、私と同じペースで歩いてくれて、私が興味のあるものに頷いてくれる──。

比べてはいけないと分かってはいても、心のどこかで、2人の「違い」を探してしまう私がいた。

こんな最低な私は、誰かに好かれる資格があるのだろうか。
誰かを好きになっても良いのだろうか。

「すーちゃん」

伊藤
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その声にハッとして顔を上げると、心配そうな顔のカイくん。

「…すーちゃんが本当に嫌ならやめるよ?」

なんてずるいんだろう。そんな目でこちらを見つめられて、断れるわけがないのに。

「別にいいわよ、ご飯くらいなら」
その言葉にパッと表情が明るくなる。わかりやすいくらいに単純。

伸一さんには正直に言おう。下手に隠すと怪しいから。
きっと彼はまた感情のわからない顔で、わかったと呟くんだ。

Dangerous
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カイくんが連れてきたのは、私の知らない近所のこじんまりしたレストランだった。

2人席に座り、嬉々としてメニューを広げるカイくん。そのカイくん越しに見知った背中を見つけて凍りつく。伸一さんだ。

いくら先ほど話そうと考えていたとて、今すぐにじゃない。

幸い、伸一さんはまだこちらには気づいていないけれども、振り返られたら確実にバレる。

自分の前にパッとメニューを立てて顔を隠した。

ガチョウ倶楽部
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カイくんは、意外な鋭さで私の状況を察した。
それから不自然に窓の外を指し、いつになく抑えた声で言う。
「あそこのお店のピザがすごく美味しかったんだよ」
「うん…」
「ちょっとすーちゃん先行っててくれないかな」
「え?」
カイくんは私に荷物とコートを握らせると、伸一さんと目が合わないように気を遣いながらも、強引に私を外へ出した。

…扉が閉まる瞬間に見えた。
伸一さん、そういえば誰と来てたの。

あおい鱗
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私はガラス越しに伸一さんを見た。テーブル挟んだ向かい側には、ショートカットの気の強そうな顔立ちの女性がいた。その人は私に気がつくと私に笑みを向ける。その女性の視線を辿ったらしい伸一さんが私に気付いた。
伸一さんの表情は見れなかった。カイくんが遮ったから。
「こんな形で知らせてごめん」
きっと今のカイくんは、叱られた子犬みたいな顔をしてる。そんなカイくんが愛おしくなり私はカイくんを抱きしめた。

靉.
- 完 -

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