人形師レオン

レオンという人形師と呼ばれる者がいた
人形師の仕事は、依頼されたものを生前と同じ形で保存しそして人形のごとく動かすこと
レオンは尊敬されそして忌み嫌われていた

レオンのところには時折おかしな客が訪れる
花や本といったものに始まり、中には音楽を持ってきた客もいた
どんなものでもレオンは笑顔で引き受ける
それが自分の仕事だからだ

だが今日の客は別だ
「私を人形にしてくれ」
レオンは言葉に詰まった

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生きた人間を人形にするということ、それはつまり「殺す」のと同義だ。

客はまだ健康そうに見えた。だが、その表情は硬かった。

「おまえはどんな仕事でも受け入れてくれると聞いた。その腕を見込んで頼んでいるのだ」

レオンは一度断った。人形師の仕事を始めて、客の依頼を断るのは、それが初めてだった。

だが、客は何度もレオンを訪れ、自らを人形にすることを頼み続けた。
ついに、折れたのはレオンの方だった。

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「分かった。だが、一つ聞かせて欲しい」

レオンは客に問うた。

「あなたを人形にしてみせることはできる。だが、そこに貴方の自我は宿らない。貴方は人形の完成を、その目では見られない。……だのに、そこまでして、一体なぜ人形になろうというのか」

客は答えた。

「私は、かつてあなたに一度依頼をしたことがある。その時に、あなたの人形師としての腕に惚れ込んだのだ。あなたの腕前をこの身で保存させてほしい」

八子 棗
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レオンは悩んだ。人形師の腕を認められる事は最上の喜び。と、同時に腕を認めてくれた相手を人形にする事への抵抗が蘇った。
何より、人形にするとは言え、人を殺すと同義の行為へ自身の技術を使いたくなかった。

約束の日。レオンは製作所に客を案内する。
男を台の上に寝かせ、硝子瓶を見せた。

「貴方はこれから人形になる。僕はこの瓶に、貴方の魂を収める事にした。人形になった貴方自身を、その魂で感じて貰う為に」

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ただし、とレオンは付け加える。

「この瓶はあくまで仮の置場であり、貴方の身体の代わりにはならない。器を失くした魂は現世に留まり続けると、穢れて魂に残った貴方の自我も消滅する」

「…つまり、人形となった私の側にいつまでもいる事はできない、か」

「ああ、そうだ。そこで、貴方には三つの選択肢がある。人形となる事をやめるか、魂となった後穢れる前にあの世に導いてもらうか、別の器を探すか、だ」

流され屋
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レオンが示した選択肢に対し、男は優しく微笑んだ。
「気遣い感謝する。加えて気に病まないでほしい。問題ないさ。あの世へ行く前に少しでも見られるならありがたい話だ」
相手に別の道を模索する意思はない。レオンは長い息を漏らす。
「目を閉じていただきたい」
男が指示に従う。レオンは右手を彼の胸に添え、左手の瓶を近づけた。

瓶の中に極小の太陽みたいな球と霧が生じる。それはレオンが引き抜いた男の魂だった。

Joi
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淡く輝く魂が瓶の中に収まったことを見届けると、レオンは瓶の蓋のコルクをきつく閉めた。コルクにしたのは、少しでも空気の循環を作るためだ。ゴム栓で密閉しては、男の魂も窒息するような気がした。もっとも、霊魂に口も肺もないのは当たり前であるのだが。
魂を抜いた男の肉体から、体温が失われていく。血の気のなくなった男の姿は、さながら人形のようでもあった。皮肉なことだ。
時間は少ない。レオンは早速作業を始める。

遠雷
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「核納箱」から手頃な大きさの『核』を取り出して、先ほど抜き取った魂の代わりに埋めこんだ。
そして「芯筒」から『芯』を引き出して、背骨から始めて主だった骨に次々と『芯』を通していった。
各関節には『自由玉』をはめ込み、その時々で自由自在な動きを勝手にするようにした。
「色彩皿」から気になる部分の『色』を筆で取り分け、慎重に着色してゆく。
「我ながら、まずまずの仕上がりだ」
と、そう思った。

ぷにぷにヒロ坊
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その時、瓶の砕ける音と熱風がレオンを襲った。
霊魂が人形に吸収された直後、くぐもった悲鳴が上がる。
「ナゼ……ダ」
やはり永久の身体が目的だったか。
「核の無い人形は動かない。そして核は霊魂を受け容れない」
例外無く。レオンにはよく分かっていた。

核が拒絶反応を起こした人形は見る間に朽ちていく。
レオンの腕で今一度霊魂を引き揚げることはできたが魂の行く末を思い、しなかった。

静寂だけが残った。

ユリア
- 完 -

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