青く透明な夢の終わりで、私は

近頃不思議な夢を見る。

誰もいない廃墟のビル。私はその屋上に立って、柵の外から下を見下ろしている。ビルの足元は色水のように青い水に使っていて、透き通っているのに底が見えない。

何を思ったか、私は何も無いはずの宙に足を踏み出す。身体はふわりと支点を失って、青い水へと真っ逆さまに落ちて行く。眼に映るのは、寂れて廃れた人の跡。

世界が水に満たされる。私は気泡の浮上を眺めつつ、沈み続けて夢は終わる。

遠雷
- 1 -

そんな話を、イズミから聞いたのが二日前。

私は、廃墟ビルの屋上にひとり立っていた。低い柵の遥か下に、不自然なほど青い水面が見える。
夢だなあ、とどこかで理解したけれど、思考はふわふわとまとまらない。決められた筋書きに沿うように、私は柵を越え、宙空へと歩み出す。空気を足場にできない体は、真っ直ぐに落ちて行く。

揺らぐ視界、血潮の音が近い。青い世界に夢の終わりを感じて、目を閉じようとした。

シケ崎
- 2 -

怪奇の続く夢物語が、噂として出回るのにそれほど時間はかからなかった。

魔に魅入られたように、イズミもモエカも視線を遠くへ投げかけている。きっとそこに、誰にも触れられないほど美しい透明があるのだと、私も廃墟ビルの屋上へと向かった。
果たして、柵の下に水面が見えた。積み重なった屍の城。彼らにも抱く夢はあったろう。

虚空へと身体を預け、風を切って落下する。
青の世界のきらきらが私を包みこむ。

aoto'
- 3 -

クラスに飛び交う噂はどんどん詳細になってゆく。

「ミスズも見たんだって」
「ねぇ、知ってる?見ちゃった人はその青に心を奪われちゃうんだって」
「イズミたちの心は向こうの世界に閉じ込められてるんだって」

青に心を奪われる。なんと魅力的な響きだろう。
この噂に、惹かれる者は多い。私だってその一人だ。
同じことを繰り返す日々。この息苦しさから逃れられるのなら、心を囚われてもいいと思ったのだ。

紬歌
- 4 -

私もその夢を見てみたい。
そう願い続けて1週間、遂に私も例の廃墟のビルの屋上へとやって来た。噂通り柵の外に立ち、青い水で満たされた地面を見下ろしている。
あの中へ行けば、私も解放される……私は迷うことなく、片足を宙へ伸ばした。

その時、チャプンと何かが水から跳ねた。一瞬だが巨大な魚のように見える。
そのまま跳ねた場所に目を凝らしていると、その物体は再度跳ねた。

それは、人間だった。

ぱっちん
- 5 -

あ、と思った。
青に不快や不信を持った訳ではなかった。微睡みから落ちる時のような、我に返る感覚。それでも尚夢見たままのあの感じ。

その刹那、青い水が消えてしまった。
否、水は消えていなかった。揺蕩う人の影が見える。
青が見えなくなったのだ。ほんとうの透明になったのかもしれなかった。

柵を掴む手に汗が滲む。
青に呑まれぬ夢の終わり方を、私は知らない。

絢水
- 6 -

これはただ、私の欲望が見せた偽の夢。偽物。偽物。今すぐ醒めろ目を開けろ。ドクドクと脈打つ音が脳を揺らす。跳ねる人影に見知った顔。これは私の夢だから。

ガクン!

落下する。私の脚も跳ねる。いつもなら、ここで目醒めてしまうのに。崩れる足場が妙にリアルで。

「だぁしぃてぇ」

妙ちきりんに間延びした声。スローモーション。そうは思えぬスピードで落ちる。瓦礫の塊が私を打ち付け舞い上がっていく。

113
- 7 -

目を開けたとき、イズミの無気力な顔がゼロ距離にあって悲鳴を上げた。目は奥まで青く染まり、口元から紺色の涎を流している。
「青……どこ?」
イズミの手が私の頬を撫でる。私はその手を弾いて立ち上がった。
だが足元が頼りない。再び倒れ込んだ私の髪を、跳ねるモエカが飲み込もうとする。
「青がないと苦しいよ……」
「知らないよ!離して!」
早く逃げなきゃ。私は青に呑まれたかっただけ。屍の巣窟は望んでない。

Joi
- 8 -

私は、モエカを力任せに引き剥がし、逃げた。
背後で、ぴちゃん、と音がする。振り返ってはいけない。けれどやっぱり気になって、振り返ってしまった。モエカだけじゃなく、もっとたくさんの人が、透明の上で跳ねて……
「苦しい」
隣で、不気味な声がした。いつの間に追いつかれたのか、イズミがギョロリと私を見つめていた。
と、そのとき。辺りが、ぶわっと青に包まれた。

嗚呼、やっと私は、青に呑まれて──

紫月 玲
- 完 -

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