言葉削り

日本全土で災害、言葉削りが発生した。今回は『p』が奪われてしまった。

ああ、なんて事だ。これでは林檎に筆記具を刺すあの歌も歌えない!

しかし被害はこれでは済まなかった。

「総理!異常事態です」
「何だ、いつも通り別の言葉で言い換えればいいだろう」
「それが、あのカラメルがかかった、滑らかな食感の、あのスイーツがどうにも言い換えられず苦情が殺到してます!」
「むぅ…、言い換え大臣を呼べ!」

木箱
- 1 -

「なかなかの難問ですな」
「大臣にもか……?」
「ええ。フラン、という呼び方ができなくもないのですが、はっとならないでしょう? さらに、揺れる音を始めとした多くの擬音が使えなくなっいる」
総理は、はっとならないという言い回しもはっとならないな、と眉を寄せた。
「まあ、フランかチュルリンのどちらかで普及するしか──」

「総理! よくスロットと並べられるあの店が、所々で大変なことになっています!」

続木
- 2 -

さすがにそれはまずい。
会議室の全員が頭を抱えた。

「そちらの解決が先だな。大臣、どうしましょう」
「これは……困りものですなぁ。全てをまとめてスロットとしてしまうのか、新たな名称を決めるのか……とりあえず先に看板を撤収させましょう。あれを掲げるのはマズい」
「ですな。おい、全国の店舗にそう伝えろ!」

「総理!」
「今度は何だ!」
「また新たな言葉削りが……!」

詩夢
- 3 -

会議室に緊張がはしる。
「速すぎますね」
言葉にならぬどよめきを、言い換え大臣が代弁した。
「次は何だ!」
「はい、今回は『w』の文字削りの発生が確認されました。主に一人称に影響が出ており、目下別の一人称で対策を進めております。あと……」
男は一瞬言い淀んでから続けた。
「電子掲示板やSNSに甚大な弊害が出ていると報告が」
総理が椅子から立ち上がった。
「……草が生やせなくなったのか!」

らうる
- 4 -

と、会議室の電話が鳴り響いた。
「もしもし…な、何だと⁉︎インターネットのホームページが全て閲覧不可になっただと!」
「何⁉︎サーバがダウンしたのか⁉︎」
「いえ、ホームページのアドレスにはあの2つの文字が多く使われているんです!」
「か、関係省庁に連絡を!」
「ですが、日本からのメールの最後の文字はアレですので、使用不可能です!」
「そうなると、日本のネットは大打撃をうけてしまうぞ!」

hyper
- 5 -

ふふふ。みんなこまってるなぁ。
ザクザクザク。
ことばなんていらないんだよ。

此処は言葉削りの作業場。
全身がこれまで奪って来たアルファベットでできている。まるでアナグラム柄のヒ⚪︎クトグラム。
手にした彫刻刀で、何やら一心に削り出している。

言葉削りは嬉々として言葉を収集し、呑み込んでいく。
彼こそ、言葉にならぬ怒りを、悔しさを抱えていた。

ことばにすりゃいいってもんでもないしなぁ。

113
- 6 -

言葉にする事で、始めて形づけられるものがある。
例えば、感情。「悲しさ」は、言葉にして始めて感じるものだ。
あるいは、抽象的な概念。「勇気」なんて、言葉が無ければ存在していたかどうかも不明だ。

言葉はそれらに輪郭を与え、強くする。間違った方向に固定してしまうこともあるし、気づきたくない事を認識させることもある。

pw…wwp…wpwp……
言葉を作れない言葉削りは弱く、脆かった。

こりす
- 7 -

「言葉削りを見つけた。ミッションを開始します」

作業場を突き止めた特殊急襲部隊。通称「SAT」のメンバーだった。本部と機動隊とが連絡を取り合い、作戦を実行していく。作業場に閃光弾と催涙弾が投げ込まれる。
「ターゲットを捕獲せよ」
なだれ込むSATが言葉削りを捕らえようとする。言葉によって統制された者たちの、流れるように素早い連携だった。

「観念しな。削った言葉を元に戻してもらうぞ」

aoto'
- 8 -

果たして、『w』と『p』が戻り、日本のネットは復活した。SNSでは皆が草を生やし、リンゴに筆記具を刺す歌が歌われ、更に草が生やされた。

言葉は人との意思疎通を豊かにする。言葉によって初めて「嬉しい」を伝えらえ、「幸せ」を感じることができる。

結局は言葉も使いようなのだ。
自分を傷つけるのも他人を幸せにするのも言葉を使う人次第。

そう結論づけた緑色の野良猫は、にゃははと草を生やした。

九緑永無
- 完 -

novelnoveは
9人でひとつの
ストーリーを完成させる
参加型小説アプリです。