きのせい

「あ〜、気のせい気のせい」

それが私の口癖。友人から厄介な事を言われた時や、奇妙なものを見た時によく言ってしまう。

だが、今私の目の前にいるのは、とても気のせいだと思えなかった。

「…呼んだ?」
「え?」
「呼んだでしょ?」
「何を?」
「呼んだじゃない。『嗚呼、木の精木の精』って」

……はい?

hyper
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「2回も連呼しといて、今更間違いだったなんて言わせないわよ?」

手の平サイズの木の精は私の眉間に指を突き付けてくる。いや完全に勘違いです──と反論するも束の間、聞き捨てならぬ事情を挟んできた。

この街路樹にはある言い伝えがあり、木の精に語りかけるとその場で小さな願いを三つ叶えてくれるらしい。

「さっさと言ってよね」
「しょうがないわね…」
「ふむ、生姜が無いのね?」

?!いやそうじゃな──

おやぶん
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BON!!…漫画ならこんな効果音がつきそうな音をたて、次の瞬間、私の手中に丸々とした生姜が収まっていた。

「生姜…」
「生姜あって良かったわね。今夜の晩ごはん?」

めんどくさい時、早く話を切り上げたくて「しょうがないわね…」と言ってしまう自分を今ほど恨みたい時は無い。

「ねえ木の精……いまの願い気のせいなんだけど……取り消せないかな」
「あら、鳥消したいのね?」

?!え、ちょっと待っーー

ユリア
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BON!!…そんな効果音が聞こえた気がした。案の定、鳥が消えていた。
街路樹に止まっていたはずの鳥の鳴き声は聞こえなくなった。私は肩を落とした。
「鳥、消しちゃったの…」
「消してと言われたからね! もしかして、鳥の生姜焼きとかする予定だった?」

言い返す気にもなれなかった。

残ったもう一つの願いはどうしようか。

うかつに言葉にするとろくなことにはならない。

「早く! 早く!」

aoto'
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「えっと…じゃあ、まともなやつで…」
なんかないか。
って、私喋ってんじゃん!考え事をすぐ口にしてしまう私の癖が恨めしい。また変な願いにさせられちゃうと困るよ…。
「OK!じゃあ、「ま」と「も」のついてる…」
ほら来たー!
「ちょっとまった!」
「へ?ちょ、止まった?何が?」
がっくり。
もうやだこの木の精。

「なんなのよー。早くいいなさいよ」
木の精が怒る。
「じゃあ、あと3つ願いを叶えて!」

1106
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「それはダメ〜!ルール違反だよ」
 そんなルール初めて聞いたと思いながら、最後の願いを考える。よくよく考えたら今そんなに叶えたい願いなんてないという結論になった。
「じゃあ保留で!」
 木の精は私の言葉に首を傾げる。
「ほりゅうってなに?」
「う〜ん、願い言うのはまた今度って意味だよ!また明日来るから」
 学校の始業ベルを聴きながら木の精と別れる。
 それから私は木の精の所へ毎日通うようになった。

スガル
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「どうしようかな〜」

恋人ができますように?

お金持ちになれますように?

有名人になれますように?

どれも平凡で味気ない。
私には本気で手に入れたいものすらないのか。

そう言われれば、今までの人生ほしくてほしくてたまらないものなんてなかったかもしれない。

いつだって、親の言うように生きてきた。

今だってそうだ。
目の前のチャンスをものにしようと考えるが、結局自分で決められない。

noname
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それからも毎日私は木の精のところに通った。
いつしか私の手にはしわが刻まれ、腰も曲がってきた。
木の精の姿はあの日のまま変わっていない。
急速に都市化が進むこの町でこの木だけは時の流れに取り残されたようにずしりと屹立している。
「願い事決まった?」
「いいや」
いつもの問答が繰り返される。

振り返ってみると悪い人生ではなかった。

八重のオコア
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私は、ろくに動かない体で、木の精に微笑みかける。

三つ目の、最期の願い事は。

「…もう、私の願い事は、叶ったんだよ」
「え?」

木の精は、不思議そうに首を傾げる。

木の精のおかげで、願いなど必要のない人生を送ることが出来た。
そう伝えると、木の精はまんまるの目を更に丸くさせた。

「だから、ありがとうね、木の精」

その大きな瞳から、雫が落ちたように見えたのも、きっと気のせいだろう。

茜音
- 完 -

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