樹形図を辿れるがために私は……

樹形図の中にいる。より良き選択を探るために右往左往しているけれど、それもいつしかくたびれて、ある点で動かなくなる。なりつつある。

樹形図の中にはあなたの姿も見かける。二つや三つ、いや十ぐらいはあなたの名前が標されている。

共にした思い出は風船のようなものだ。あなたが覚えているかは定かでない。この手を離しては空にいったきり、一生戻ってきそうにない。

私の樹形図の答えは別の樹形図に繋がっている。

中性ボールペン
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ときどき、横にいるはずの私を思い浮かべる。あのとき、ああしなかった、私。でもそれはもういないのだと、私は知っている。

そして私は知っている。このぐにゃぐにゃの道のりが、ずっと上から見れば一直線なこと。私はあっちこっち曲がって、まっすぐ、ここに来た。

目の前にはまだまだ樹形図。大きさに、迷う、つかれる。でもどれを選んでも、一直線に。
一呼吸。標の前でお湯を沸かして、コーヒーを淹れよう。

noName
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コーヒーを飲む。苦い。あまりコーヒーは好きじゃなかった。横にいるはずの私は、美味しそうにカフェオレを飲んでいる。そのまた横にいるはずの私は、ココアを飲んでいる。はず。

休憩がてら、ぼんやりと考える。思い出の風船を手放したのは、いつの私だったのか。必ずどこかで風船を手放した私と手放さなかった私に別れる分岐があったのだ。
手放さなかった私も、またどこかで分岐して。こうしてあなたの名前ばかりが増える。

lalalacco
- 3 -

苦味の残る唇のまま、樹形図を遡る。分岐はどこだった? 何を選び取った? 何を間違えた?
枝分かれを一つずつ丁寧に検分すれば、そこここにあなたの名前。また、あぁここにも。辿る、なぞる、何度も。

風船の赤の色が樹形図の一端を染めた形跡。決定的な分岐。
それを見出した指先はカタカタ震えて、薄いコーヒーカップを取り落とした。

かしゃん。

ああ、そうだった。その分岐の前にも後にも、あなたの名前しか。

- 4 -

あなたの名前が出て来ない分岐まで遡れなかった。もしかしたら遡れた私も居るのかもしれなくても。コーヒーカップを取り落とした私にいつかは辿り着くのだろう。

──間違いはないよ。その時の選択が君の最善なんだから。

決定的な分岐を見つけたとしても、あの声を二度と聞くことは、ない。

「大丈夫ですか」
隣の席の見知らぬ老婦人から不意に話しかけられ、私は頬を伝う涙に気付く。

- 5 -

大丈夫です、と微笑む私の隣には誰もいなかった。途切れた樹系図。選ぶしかない一筋の糸。

「ずいぶん悩んでいらっしゃるのね。話を聞くだけでよかったら聞きますよ」

聞くだけ? と私は涙声で聞き返す。そんな事を言われたのは初めてだ。
みんな、話を聞いた後に自分は、自分はと捲したてる。それはあなたの樹系図で、私の樹系図とは全くと言っていいほど違うのに。
老婦人は私の言葉に優しく笑う。

うみの みおり
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「選ばなかったこと、後悔してます」
ポロリと呟きを送り出す。語ることを選ばせてくれた優しい微笑みに。

私は絵を描いて、あの人は物語を書いた。
ずっと二人でやって行けると信じて、あの人一人に任せきりにしていた選別。私の樹形図は、あの人の樹形図と重なっていた。

ある日、彼は言った。
「絵って一瞬でパッと眼を惹けるから、得だよな。僕の物語は、まず目に留めて貰うのに君が必要になってしまう」
違うのに。

113
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私の絵はずっと、貴方の物語から生まれていたのに。貴方がペンを走らせる度、この世界に光が一つずつ灯っていく。それが無ければ私の絵は描かれなかった。

そう言った、はずだった。
私の世界には貴方が必要なのだと、そう言ったつもりだった。
なのに言葉は捩れて、いつの間にか、お互いが、お互いのいない世界で生きなければならないと、そう思うようになっていた。

決定的な分岐。なのに、私はまだ遡りたがっている。

虹のコヨーテ
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「過去に戻ってやり直したいのね? でも済んでしまった選択肢よりも、まだ来ぬ未来の選択肢の方が多いのよ?」
と老婦人は言い一冊の本を差し出した。

見た事のないタイトル。
見た事のない絵。
でも作者は彼で絵の担当は私だった。

「これは?」
私の疑問に「これは未来の選択肢のひとつの可能性。あなたが私の樹形図に辿りつけるかは分からないけど、この本が希望になるはずよ」と老婦人は私と同じ癖の笑顔を向けた。

ぷにぷにヒロ坊
- 完 -

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