おとしもの

転校生がやってきた。
背の低いちょっとタレ目のかわいい女の子。
男共が騒がしい。
先生に促され緊張気味に教壇の前に立っている姿は私も守ってあげたいなんて気持ちになる。男だったら尚更そう感じるだろう。
お決まりの様に先生が黒板に大きく名前を書き出した。
瀬野彩香。
転校生の名前をみて、私は驚きのあまり勢いよく立ち上がった。
教室中外の視線が集まる。
「あなたあの瀬野彩香?」
私はおそるおそる尋ねた。

nyanya
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少女は困ったように眉をひそめてから、
「そうですけど……」
と答えた。先生も周りも戸惑っているのがわかる。でも一番困惑してるのは私だ。
「あ、いや、ごめんなさい」
先生の視線に気づいて私はゆっくり座った。でもまだ胸が高鳴っている。

瀬野彩香。お母さんが言っていた名前。
私が小さい頃、仲のよかった子。ある日突然引っ越した子。
私のことを井戸に突き落とした人。殺されかけた相手。

Dangerous
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席に着いた途端質問攻めにされている彼女を観察する。

同姓同名の別人って可能性もあるのだ。

「瀬野」なんてそんなに珍しい苗字じゃないし。

顔はどうだろう?

あの子に似てるかな。

──だめだわからん。

最後に会ってからあまりにも時が経ちすぎている。

だから遠回しに聞いてみることにした。

「瀬野さん。昔、ここら辺に住んでたことある?」

「ごめんね、あたし、よく覚えてないの」

edencat
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きっと思い過ごしだろう。
同姓同名など良くあることさ。
そう思う事にした。

気にして変な対応をしても気まずい。

そうしてしばらくは彼女と普通に接する事にした。

…あの日までは。

それは放課後に教室へ忘れ物を取りに行った時の事だ。帰りに階段を降りようとした際背中を押されたのだ。
バランスを崩し転げ落ちそうになるが、数歩に止まり振り返ると、そこには瀬野彩香が笑顔で立っていた。

秋月紅葉
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ニコニコした顔で私を見下ろす瀬野。
井戸に突き落とされた記憶を思い出し、私はますます彼女を疑ってしまう。

まさか、やはりあの瀬野彩香なのでは…

「今、私の背中押したよね?」

「押した?ううん、あたしはあなたを見つけて声をかける代わりに背中を突いただけよ?」

「…嘘。瀬野さん、私のこと本当は知ってるでしょ?井戸に突き落としたの、あなたなんでしょ!?」

瀬野はにっと笑って口を開く。

なむ
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「だから言ってるじゃない。私、昔のことはよく分からないって。あなたのことも、ここに来るまで知らなかった」

庇護欲を掻き立てるはずの笑みが、ぞわりと背筋を撫でる。同じ笑みを、私は似たようなアングルで見たことがあった。彼女の言葉とは裏腹に、私の疑いは確信へと変わっていく。

彼女だ。きっと彼女があの瀬野彩香だ。

闇へ落ちる感覚が、ぼんやりとフラッシュバックする。私は彼女と立ち位置を入れ替えた。

遠雷
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子供が泣いている。
『井戸の底に、落としちゃったの』
これは私だ。
『大切なものなの』
仲良しのあーちゃんが、井戸を覗き込む。
『どこ? 何を落としたの?』
身を乗り出して、一生懸命、目を凝らして。
ちょっと押したら、落ちちゃいそう。
本当は大して思い入れのないビーズの指輪だった。
ほんのちょっとした嘘。出来心。魔が差した。
私は軽い気持ちで手を伸ばし、トンと背中を押した。

えす
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──?

落とされたのは、本当に私だったのだろうか。
彩香は、相変わらずのとぼけ顔だ。
「ねぇ。一緒に帰ろ。」
彩香は、転校生特有の人懐っこさ…とでもいうのだろか…私の猜疑心に構うことなく言い放った。

二人で無言で歩いた。そうして大きな橋に差し掛かった時、彩香は歩を止め、橋の下を見下ろした。
「わぁ…高いねぇ。」
キュッと、心臓を掴まれた心地がした。
「高いねぇ、落ちたら痛いねぇ。」

あおい鱗
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「というか…痛いんだよねぇ。」
ゆっくりとこちらを向いた彩香の眼は、もう人懐こいそれではなかった。私はその眼に射抜かれて、立ちすくむ。

「こっちへおいでよ。」

私は恐る恐る、並んで下を覗き込む。

「高いねぇ…。あ、そうそう!」

私は思わずビクッとする。

「はい、これ。」

そう言って手渡されたのは、あのビーズの指輪。

「もう、落とさないようにね。」

そう言って彼女はにっこりと笑った。

あまとう
- 完 -

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