末廣湯の再興

風が吹けば桶屋は儲かるらしいでは、風呂屋はどうすれば儲かるのか?

残暑長引く月初め。
開店をあと数時間に控えた町の銭湯・末廣湯の番台で、潔子は帳簿に眉間のシワを突き付けた。

「先月も赤字か…」

不足分の捻出を考え、すぐさま算盤とタブレットを交互に弾く。
浴場の清掃中に脚立から落下した父に変わり、娘の潔子が番頭を務めて半年。

急速に進む新都市開発の風は、古き良き銭湯の味方とは思えなかった。

おやぶん
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近年、潔子の家のような銭湯は絶滅危惧種と呼んでもいいくらいに数は減少していた。

それでも今まで父が末廣湯を経営出来ていた理由、それは立地条件にあった。

この辺りには、昔から営んでいたコロッケなどの揚げ物を扱う小さな食品工場があり、仕事帰りに髪や体についた食べ物や油の臭いを、末廣湯で落として家路につく者がけっこういたのだ。

だが、その工場も一年前に廃業してしまい、客足は一気に遠退いた。

じんしん
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だが、潔子にとってこの銭湯は小さい時からの色々な想い出がある。

古い掛時計。
黒くなった柱。
湯船の前に広がる富士山の絵。

しかし、経営が傾いてきているのも事実。
やはりいずれは閉めるしか…潔子がそう思いながら帳簿を眺めていた時だった。

「よ!姉ちゃん」
「!」
その声に驚いて顔を上げると、そこには弟の猛の姿があった。

「猛!アンタ、何でこんな所に…!今はアメリカの大学のはずでしょ⁉︎」

hyper
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「今はバケーションだよ」

猛は大きなキャリーケースをぼんと叩いた。空港で見送った時はキャリーに引きずられるようにして歩いていたのに、随分と見違えたものだ。

「あそこの工場がなくなっててびっくりした。一年で変わるもんだなあ」
「そうよ。おかげでこっちは商売あがったり」
「いや、逆に良かったよ」

猛は外に向けてちょいと合図を送る。
するとぞろぞろ、入ってきたのはがたいのいいアメリカの大学生たち。

lalalacco
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「紹介する。あっちでルームシェアしてるアンソニーにルーカス、ネイサン、ウィリアムに、セスだ。Guys, it's my Sis. Behave yourself!(みんな、姉ちゃんだ。お行儀よくしろよ!)」

猛の一言に青い目の大学生たちはどっと沸く。潔子はまるで展開についていけず、弟を引っ張って部屋の隅へと退散した。

「ちょっと、どういうことなの……!?」
「見ての通り、ウチの新しい顧客さ」

まーの
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「顧客って言っても、数日だけ外人の大学生が数人はいったからってうちの商売が繁盛するわけないじゃないのよ?」
そう反論する潔子に、まるでアメリカ人のような否定のゼスチャーをしながら猛はまくしたてた。
「オー!ノー!分かってないね〜?彼らはジャパニーズなカルチャーに興味津々なんだよ〜? 動画撮影オッケーにすれば、彼らが勝手にSNSで拡散してくれるし、あっと言う間に全世界に宣伝してくれるんだぜ〜?」

ぷにぷにヒロ坊
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「それにネイサンは人気動画投稿者で
チャンネル登録者も凄いんだぞ!」

「Hello,TAKESHI elder sister. You have a beautiful eyes . We stayed at that near apartment.
Please get along well.」

そう言いながらネイサンは潔子にウインクを
効果音が聞こえてきそうなほど、
綺麗に飛ばしてきた。

夜々葉 詩乃
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「ういんく……」
彼らは早くも手持ちのタブレットで写真を撮り始めている。潔子にとっては手垢のついた馴染み深い商売道具が、彼等には物珍しいものに見えるらしい。すっかり呆気にとられていた潔子は、猛にぽんと肩を叩かれ我に返った。
「姉ちゃん! どうしたんだよ、まるで強盗にでも遭ったみたいにぼーっとして」
「どうしたもこうしたもないわよ。帰国するなり、あんた、こんな」
「でも、良いビジネスチャンスだろ?」

虹のコヨーテ
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潔子は口を噤む。すると猛が言った。
「何を考えてるかは分かる。確かに上手くいく保証はない。でもさ、まずは手近にやれることから始めてみない?」
猛の言葉を反芻する。潔子の中で、枷が外れる音がした。
潔子は写真を撮り続ける彼らに声をかける。
「お掃除手伝ってくれたら代金タダにするよ!」
猛が訳すと、彼らはダイナミックに喜んだ。久々の活気が末廣湯を包み込む。潔子はそこに、末廣湯の再興を見た気がした。

Joi
- 完 -

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