鈴虫

外からは鈴虫の声が聞こえる。
なのに、うちの鈴虫たちはまだ一度も鳴かない。
もうちゃんと脱皮して鳴ける翅になっているのに。

「鳴かないね」

そうつぶやく息子と並んでプラスチックのケースを覗き込んでいた。
後ろから声がした。

「どれどれ…」

振り向くとそこにはノブナガさん、ヒデヨシさん、イエヤスさんがいた。

Noel
- 1 -

「わあっ‼なんですか貴方達は‼」
「何じゃと‼余に向かって何たる口の聴き方!叩き斬ってやる‼」
ノブナガさんはいきなり刀を抜いて私の前に出してきた。
「ひいっ‼ちょ!ちょっと待って下さい!」
「問答無用!」
と、狼狽える私の横から、息子が顔を出した。

「わあ〜、おとのさまだぁ〜。かっこいい〜!」
「そ、そうか?ウム…ならば今日の所は童に免じて許してやる…」

あゝ我が息子よ、お前は命の恩人だ!

hyper
- 2 -

「どれどれ、鈴虫が鳴かぬのか?」と、一見、人の良さそうなイエヤスさんが息子の頭を撫でながら言った。
そして、

鳴かぬなら鳴くまで待とう鈴音虫

と、句を詠んだ。

息子はゆっくり静かに、やがて力一杯の拍手を贈った。
「まぁあれじゃ、昔詠んだ句のパクリじゃがな」
イエヤスさんは照れながら自分の頭をぺちぺち叩いた。

「ふん、何を悠長な事を!この童は今聞きたいと言っておるのだ!」と、ヒデヨシさん。

真月乃
- 3 -

「さあ、鈴虫よ。
リンリン鳴きたまえ。」
ヒデヨシさんが説得を始めた。

「 …… 」

「リンリン、じゃよ。」

「 …… 」

「リーン、リーン、じゃよ」

シーンと静まり返ったまま。
「リーン、リー…」
ヒデヨシさんのレクチャーに、ノブナガさんが突っ込んだ。
「お前は鈴かっ!」

キャハっ
隣りで息子が笑った。
「お主のために鳴かせようとしてるのでないかっ!」

sechia
- 4 -

「仕方ない!ほれ!鈴虫共よ!鳴けぇっ!」ノブナガさん、刀抜いたままじゃ鈴虫鳴きにくいですよ。
「.…。」
「鳴かんかっ!貴様ら鳴けんのか⁉︎えぇ⁉︎」「ビクビク。」
あぁ、可哀想に…。なむあみ…。ずらぁっと嫌な音がして、ノブナガさんが刀をもう一本抜く。うわっ、まさかの二刀流ですか⁈「えぇいっ!鳴かぬなら殺してしまえ鈴音虫!だぁっ!」あんなちっこいの切れんのかしらね。
「うわーん!鈴虫さん可哀想!」

LiLi
- 5 -

刃をひょいっとかわす鈴虫に、息子は「お見事!」と目を丸くして手を叩いた。
「なかなかやりよるわ…」とノブナガさんは、はぁはぁと息を切らす。

「ほれ鈴よ、茶でも飲まぬか」
ヒデヨシさんはケースの前に胡座をかいて、鈴虫たちの前に抹茶の椀と、懐から栗きんとんを差し出した。
「これはこれは、結構なお手前でっと」
そう言って、イエヤスさんが袖を捲りお茶に手を伸ばす。
「お前のではないわ!このたわけが!」

翡翠(桜前線で待機)
- 6 -

「こりゃ失礼。虫は菓子を食うまいと思おてな」
反省の言葉とは裏腹に、菓子を食べる機会を横目で伺うイエヤスさん。
「虫バイキンは甘いおかし大好きなんだよ!」
息子が幼稚園で取り入れただろう知識をここぞと披露する。

「なんとまあ、けったいな虫もいたもんじゃ!」
虫歯菌という言葉を知らぬであろう、男三人衆は揃って目を見開く。
「分かった。きっとこの虫は、けったいな虫なのだ!」
「そうだな!」

ユリア
- 7 -

幼稚園児と戦国武将という、何百年レベルのジェネレーションギャップ故か、それとも本人たちのそもそもの性格故か、噛み合っているようでいない彼らの会話は、何故か途切れない。

そうこうしている間に、今度は成人式だの大人になるだのいう話をしている。
何がどうしてそうなった。
というよりも、現代人と昔の人では成人の定義が違うと思うんだが、なぜ会話が成立するのか。

それより、息子よ!お前まだ幼稚園児だろう!

Laito
- 8 -

やがて宴が始まる。妻が三大名に日本酒を、息子にジュースを運んできた。肴は柿の種とピーナッツ。アルコールの入った三大名の勢いは止まる事を知らず、結局私は酔い潰れてしまった。

…あれから何時間経ったのだろうか。三大名の姿は見えず息子は床で寝ていた。ぼんやりとしているとリーンリーンと鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。ケースの中の鈴虫はとても元気に鳴いていた。

鳴かぬなら 宴を開こう 秋の夜

塩弐
- 完 -

novelnoveは
9人でひとつの
ストーリーを完成させる
参加型小説アプリです。