折り鶴に祈りを

彼女は教室で折り紙を折っていた。
ただそれだけ。それだけだっていうのに、目が離せない。
それは彼女の手が百合のように白かったから。夕陽に濡れた彼女の髪が綺麗だったから。僕が彼女のことが好きだったから。
けれど違うんだ。僕はどうしても目が離せなかった。朱に染まった頬に滴れるその雫から。

ろゐ
- 1 -

「ねぇ」

僕の声に彼女はハッと手を止めた。その手で雫を拭う。

「なにかよう?」

彼女はいつものよう僕に笑顔を向けた。いつもの笑顔。僕の大好きな笑顔。でも彼女の頰にまた雫が流れた。

「なんで泣いてるのかなって…」

涙を流しながら、彼女は顔をそらした。

「あなたには関係ないわ」

折られていたのは鶴のようだ。一辺ずつ丁寧に折られたそれは夕陽に映えて美しかった。

niko
- 2 -

一般的な学校の学習机の横には鞄なんかを掛けるフックがある。
うちの教室の机もそのタイプだ。
彼女のスカートの脇から見える折り鶴の束は、多分そのフックに掛けているのだろう。

「鶴を折るのが好きなの」

僕の方を見ていない彼女が、僕の視線に気付いてそう言ったのかは分からない。
分かるのは、その言葉が嘘だということだけだ。

「好きな割には、一羽折るのに時間が掛かりすぎてる」

「……何が言いたいの」

仔羊(えるやん)
- 3 -

「何かあるんだろ?君が鶴を折るのには。」

少し彼女の肩が揺れて、美しい髪がなびく。

「どうしてそんなに悲しそうに鶴を──
『ほっといて!あなたには関係ないわ!』

叫んで立ち上がり、彼女は折り鶴を持って出て行った。聞いてはいけない、触れてはいけない部分に当たってしまったようだ。

(ますます何かあるぞ…)

彼女を怒らせてしまったことへの後悔と、折り鶴の秘密への好奇心が混ざり合う。

虚木 幽
- 4 -

渡り廊下まで来た時に柵にひと房ひっかかったのを彼女が思いっきり引っ張って
走り続けるものだから千羽鶴が僕の目の前で一斉にはじけた。

さすがにバツが悪い気持ちになり
自分の周りの折り鶴をひとまず集めて
彼女に渡そうと近づくと全力で手を払われた。

「そんなもの、本当はもう今更なんの
意味もないのよ!もう手遅れ…ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

Savon
- 5 -

掌に残った折り鶴を握りしめながらへたり込む彼女を、僕は何をするでもなく見ていた。

かける言葉が見つからない。

僕はただ彼女の肩に手を置いた。今度は振り払われることはなく、彼女は時々肩を上下させてすすり泣くだけだ。

「ごめん、僕が悪かったよ。君に残酷な事を聞いた。全てわかっていたのに、認めたくなかったんだよ」

彼女はすすり泣くのをやめて、ぐしゃぐしゃの顔で僕を見上げた。

はまち
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生物は死ぬ。生き物と書くが必ず死ぬ。生はいつまであるかわからないが、死は必ずある。

「こんな紙切れ、ひたすらに虚しいものだわ」

彼女は潰れた鶴をひとつひとつ拾い上げながら呟いた。

そんな彼女を見ながら、賽の河原の話を思い出した。一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため。積んだそばから鬼に崩されて、子供たちは永遠に一から石を積み上げる。

彼女も終わりなく鶴を折り続けるのだろうか。

妙子
- 7 -

「…もう、やめにするわ。こんなこと」

彼女の声が、静寂の中に転がる。

「…やめてしまうの?」
「そうよ。虚しいだけだもの」

手の中の、くしゃくしゃになった折り鶴。
同じくらい、彼女の顔はくしゃくしゃだ。

「もう、とっくに千羽あるのよ」

はらはらと涙が溢れる。

「でも、貴方、死んだじゃない」

ああ、そうだった。

「私、千羽折ったのに、死んだじゃない」

その涙は、僕のせいだった。

風上壱悟
- 8 -

「ごめんね」

僕は彼女の泣いて朱に染まった頬に手を当てて涙を拭う。

「謝らないでよ」

死んでしまっても、彼女への恋は死んでいなかった。
この恋だけはこれからも、いつまでも死んでしまわぬように。

「待っているから、ずっと」

彼女は僕の手をとり握りしめながら、腫れた目で僕をしっかりみつめて、応える。

「うん、絶対よ」

賽の河原で石を積みながら、僕はずっと、君のことを待っていよう。

酒山 雅也
- 完 -

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